整う、という感覚を初めて知った日

初めて車を洗った日のことを、今でもよく覚えている。

自分の体よりも大きなものを洗うなんて、初めてだった。
こんなにも大変だとは、思っていなかった。

水は、思うように扱えない。
跳ねて、流れて、こちらの手には収まらない。

拭こうとしているうちに、もう別の場所が乾いていく。
待ってくれることなんて、なかった。

とても、上手とは言えなかった。

それでも、洗い終えたあとの達成感は格別だった。
今まで感じたことのない、静かで満たされる感覚だった。

私はあの日、初めて「整う」ということを知ったのだと思う。

綺麗になったのは、車だけじゃない。
手を動かしているうちに、心の中まで少しずつ澄んでいって、
洗い終えた頃には、自分まで整えられたような気がした。

あの瞬間を、私は今でも忘れられない。

だから私は、時間を割いてでも、この時間を取りたいと思う。

ただ綺麗にするためじゃなくて、
あの感覚にもう一度触れたくて。

道を歩いていて、
自分の手で車を洗っている人を見かけると、

心の中で、そっと思う。
「私もです」って。

少しだけ、嬉しくなる。

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水は、切る。